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執筆者の写真鈴木俊行

死後事務委任契約は、①生前の財産管理等契約、任意後見契約と合わせるなどして締結する必要性とは。民間業者にそそのかされて死後事務委任契約だけを締結するのはリスクあり。②相続人が契約の解除はできるか?

更新日:2023年8月11日

死後事務委任契約は、①生前の財産管理等契約、任意後見契約と合わせるなどして締結する必要性とは。民間業者にそそのかされて死後事務委任契約だけを締結するのはリスクあり。②相続人が契約の解除はできるか?


㋐ 生前に死後事務の委任を依頼したとしても、委任者死亡後に受任者が必ず契約内容を履行するだろうか?

㋑ 死後事務委任契約は委任契約の一種であるから、民法では、委任契約の委任者が死亡した場合、委任契約は終了するとされています(民法653条1号)


●死後事務委任契約の必要性

遺言によって法的効力が生じる事項は法定されていて、

そのため、葬儀、役所での手続き、病院代の精算、公共サービスの解約などについては、遺言では対応できません。

また、法定後見や任意後見契約によってもカバーしきれない事柄がありますので、その意味でも死後事務委任は必要な場合があります。

本来、これらの事務手続きは相続人が行うのですが、被相続人に身寄りがない場合などは特に死後事務委任が必要になります。


※死後事務委任契約において委任する事項例

親族や関係者に対する死亡の連絡

死亡届の提出

葬儀・火葬・納骨・埋葬・永代供養などに関する事務

医療費・施設施設費などの精算に関する事務

税金などの債務の支払い

年金・健康保険などの届出

電気・ガス・水道などの公共サービス、電話・インターネット接続サービスなどの解約

ホームページ・ブログ・SNSなどの解約・退会

パソコンなどに保存されているデータの消去

家財道具・生活用品の処分

遺品の整理

ペットの引取り

不動産賃貸借契約の解約・住居の明渡

など


●死後事務委任契約の有効性

民法では、委任契約の委任者が死亡した場合、委任契約は終了するとされていますが、これは任意規定とされていて、委任者が受任者との間でした自己の死後の事務を含めた法律行為などの委任契約については、委任者が死亡しても終了しないとした判例があります(最高裁平成4年9月22日)。


この判例の「委任者が受任者との間でした自己の死後の事務を含めた法律行為などの委任契約」という書き方からすると、「死後事務委任契約」の締結だけでは、その有効性に疑いが生じ、死後に有効な委任契約となるためには、生前からの財産管理契約や任意後見契約といったものとの一連の流れから死後事務も委任したという態様が求められると考えられます。

財産管理や任意後見といった生前から付き合いが有りかつ信頼の有る方に死後事務の依頼をしておけば、死後事務委任契約報酬だけを懐に入れたい死後事務委任契約のみを引き受ける悪徳業者の不履行被害その他の法的トラブルに遭うことも防ぐことができるでしょう。


<最高裁平成4年9月22日>

丙山良子は、…同人名義の預貯金通帳、印章及び右預貯金通帳から引き出した金員を上告人に交付して、丙山の入院中の諸費用の病院への支払、同人の死後の葬式を含む法要の施行とその費用の支払、同人が入院中に世話になった家政婦の丁野テル子及び友人の戊山ミカ子に対する応分の謝礼金の支払を依頼する旨の契約を締結した…。

自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約が丙山と上告人との間に成立したとの原審の認定は、当然に、委任者丙山の死亡によっても右契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものというべく、民法653条の法意がかかる合意の効力を否定するものでないことは疑いを容れないところである。

しかるに、原判決が丙山の死後の事務処理の委任契約の成立を認定しながら、この契約が民法653条の規定により丙山の死亡と同時に当然に終了すべきものとしたのは、同条の解釈適用を誤り、ひいては理由そごの違法があるに帰し、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。


●相続人は死後事務委任契約を解除できるのか?

民法では、委任契約は各当事者がいつでも契約を解除できるとされていて(民法651条1項)、また、委任者の死亡により、委任者の地位は相続人に承継されることになっています(民法896条)。

つまり、相続人が死後事務委任契約を解除できるかが問題となります。

これについては、委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の準委任契約は、委任者の死亡によっても当然に契約を終了させない旨の合意を包含し、委任者の遺言により祭祀の主宰者に指定された者は、その契約の内容に不明確性や実現困難性があり、履行負担が加重であるなど契約の履行が不合理と認められる特段の事情がない限り、同契約を解除して終了させることができないとした裁判例があります(東京高裁平成21年12月21日)。


<東京高裁平成21年12月21日>

本来、委任契約は特段の合意がない限り、委任者の死亡により終了する(民法653条1号)のであるが、委任者が、受任者に対し、入院中の諸費用の病院への支払、自己の死後の葬式を含む法要の施行とその費用の支払、入院中に世話になった家政婦や友人に対する応分の謝礼金の支払を依頼するなど、委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては、委任者の死亡によっても当然に同契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨と解される(最高裁平成4年…9月22日…)。

さらに、委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては、委任者は、自己の死亡後に契約に従って事務が履行がされることを想定して契約を締結しているのであるから、その契約内容が不明確又は実現困難であったり、委任者の地位を承継した者にとって履行負担が加重であるなど契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情がない限り、委任者の地位の承継者が委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含する趣旨と解することが相当である。

以上のような本件にあらわれた諸事情を総合すると、本件…準委任契約においては、委任者である花子が死亡し、祭祀承継者として控訴人が委任者の地位を承継することとなったとしても、控訴人に同契約を解除することを許さない合意を包含する趣旨と解するのが相当である。



ただし、

委任者に相続人が有る場合は、原則として死後事務は相続人が行うものです。

実務現場では、

委任者に相続人がいる場合の死後事務委任契約は、相続人と死後事務委任契約との対立が起こり得ます。

そのようなことから、実務的には、相続人による死後事務委任契約の解除を制限する特約を定めるという対応も考えられます。



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終活・相続・葬祭「法務」

行政書士鈴木俊行


「終活・葬祭法務ネットワーク協会代表」


東京都杉並区阿佐谷

杉並区役所隣り

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