1「セレモニー会館のエレベーター」
- 鈴木俊行
- 2022年8月10日
- 読了時間: 2分
更新日:2023年2月1日
そこは、都内中規模のセレモニー会館。
或る日、
前の日の夕方に病院で亡くなられた方のご遺体が
霊安室に安置されていた。
喪主が一人で焼香に来館すると連絡があった。
その日は来客は少なく、
葬儀もなく静かな日であった。
喪主の来館予定は夕方。
会館の1階入り口で待つことにした。
なにしろ会館は古くて迷路のようだから案内しないと迷子になる。
到着予定時刻どおりに、青ざめた顔の喪主がタクシーで到着したので、
焼香の前にまず控室に通す。
とりあえず控室が有るフロアに上がるエレベーター前まで案内し、そのフロア階数を教えてエレベーターのボタンを押した。
そこのエレベーター内の壁には、一枚の風景写真が額に入れられて掛けられて有る。
それは、エレベーターの振動や空調の風でほんの微かにいつも揺れてしまうのだが。
すでに通常の焼香対応の時間帯はとっくに過ぎているので、
1階のエレベーター前、そのあたりには誰もいない。
エレベーターが1階に降りてきた。
扉が開く。
喪主は、エレベーター前の廊下のソファーに疲れた様子で座っている。
あたりに風は無い、地震もないから建物も揺れてもいない。
扉が開いた。
すると、バタンバタンと大きな音がエレベーター内からした。
エレベーター内の風景写真が、異常に大きく揺れている。
いや、揺れているというよりエレベーター内の壁に激しくぶつかりバタついている。
ただの揺れではない、何かにあおられている。
私は知らぬ顔で、というより冷静さを装い喪主をエレベーターに乗せて見送った。
あとから聞くと、喪主をエレベーターに乗せた時刻は、ちょうど患者さんが前日に息を引き取った時刻だったようだ。
あの風景写真があれ程に音を立ててバタバタと揺れたのは、後にも先にもあのときだけである。
終活・相続・葬祭「法務」 行政書士鈴木俊行 東京都杉並区阿佐谷 杉並区役所隣り

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