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1「セレモニー会館のエレベーター」

更新日:2023年2月1日


そこは、都内中規模のセレモニー会館。


或る日、


前の日の夕方に病院で亡くなられた方のご遺体が

霊安室に安置されていた。


喪主が一人で焼香に来館すると連絡があった。

その日は来客は少なく、

葬儀もなく静かな日であった。


喪主の来館予定は夕方。


会館の1階入り口で待つことにした。

なにしろ会館は古くて迷路のようだから案内しないと迷子になる。


到着予定時刻どおりに、青ざめた顔の喪主がタクシーで到着したので、

焼香の前にまず控室に通す。


とりあえず控室が有るフロアに上がるエレベーター前まで案内し、そのフロア階数を教えてエレベーターのボタンを押した。


そこのエレベーター内の壁には、一枚の風景写真が額に入れられて掛けられて有る。

それは、エレベーターの振動や空調の風でほんの微かにいつも揺れてしまうのだが。


すでに通常の焼香対応の時間帯はとっくに過ぎているので、

1階のエレベーター前、そのあたりには誰もいない。


エレベーターが1階に降りてきた。


扉が開く。


喪主は、エレベーター前の廊下のソファーに疲れた様子で座っている。


あたりに風は無い、地震もないから建物も揺れてもいない。

扉が開いた。


すると、バタンバタンと大きな音がエレベーター内からした。

エレベーター内の風景写真が、異常に大きく揺れている。


いや、揺れているというよりエレベーター内の壁に激しくぶつかりバタついている。

ただの揺れではない、何かにあおられている。


私は知らぬ顔で、というより冷静さを装い喪主をエレベーターに乗せて見送った。


あとから聞くと、喪主をエレベーターに乗せた時刻は、ちょうど患者さんが前日に息を引き取った時刻だったようだ。


あの風景写真があれ程に音を立ててバタバタと揺れたのは、後にも先にもあのときだけである。




終活・相続・葬祭「法務」 行政書士鈴木俊行 東京都杉並区阿佐谷 杉並区役所隣り


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