延命措置を拒否したいとき(人生100年時代と言われているが健康寿命は限られている)<行政書士鈴木俊行>
- 鈴木俊行
- 2月7日
- 読了時間: 9分
更新日:3月20日
延命措置を拒否したいとき(人生100年時代と言われているが健康寿命は限られている)
超高齢社会、長寿社会の中で「終末期医療の自己決定」「尊厳死宣言」などがキーワードとなっている。
●終末期医療(ターミナルケア)とは
病気の進行が進み、死期が近づいている患者に対して行う医療。
重い病気の末期で不治と判断されたとき、治療よりも患者の心身の苦痛を和らげ、穏やかに日々を過ごせるように配慮する療養法。
・終末期に望む医療行為、望まない医療行為があるはず
(例)人工心肺、胃ろうなど
(例)自宅療養を望む
終末期医療において、なぜ「尊厳死宣言書」が必要なのか?
万が一、延命措置が必要な状況になり、自分の意思を伝えることができなくなってしまった場合、何らの準備もなく、本人の明確な意思が確認できないときに、本人が尊厳死を望んでいたとしても、尊厳死の希望を叶えるのは難しいと言わざるを得ない。
尊厳死宣言書がなく、本人の意思を確認できない場合、
延命措置を実施するのか拒否するのかについては家族・親族が決断をすることになる。
その際に、医師から決断を迫られた親族はとても重い決断を下すことになり、親族にとっては、延命治療を拒否するということはなかなか決断できない。
●尊厳死と安楽死
・尊厳死と安楽死の違い
不治の病気や重度の障害など、患者本人にとって極めて苦痛で、回復の見込みも無いような場合、ときとして次のような措置が取られる場合がある(この場合、倫理的な問題は別)。
1)延命治療を休止する。
2)患者の命を絶つ行為をしたり、自殺を幇助する。
一般的には、
1)を「尊厳死」(消極的安楽死)
2)を「安楽死」(消極的安楽死)
と表現する傾向がある。
また、「尊厳死」という語には、
前述の1)の意味以外に、もっと広い意味もある。
すなわち、死を迎える本人が誇りをもって、あるいは個人の理念に従う形で死ぬということ。
延命するか、しないか、という問題ではなく、個人の納得する形であれば、あらゆる場合が「尊厳死」と呼び得るということになる。
・安楽死
回復の見込みがなく、苦痛の激しい末期の傷病者に対して、本人の意思に基づき、薬物を投与するなどして人為的に死を迎えさせること。
日本では法的には認められていない。
・横浜地方裁判所の東海大学安楽死事件(1991年)に対する判決(1995年)においては、
(1)患者に耐えがたい激しい肉体的苦痛があること
(2)患者は死が避けられず、その死期が迫っていること
(3)患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし、代替手段がないこと
(4)患者自身による、安楽死を望む意思表示があること
の4要件を満たせば、安楽死が認められる(違法ではない)とされたが、これまで認められた例はない。
・尊厳死
回復の見込みがない傷病者に対して、本人のリヴィング・ウィル(尊厳死宣言・生前の意思)に基づき、人工呼吸器や点滴などの生命維持装置を外し、人為的な延命措置を中止して、寿命が尽きたときに自然な死を迎えさせること。
植物状態におちいるなどしたとき、人工的な延命措置によって生命を維持し続けることは、人間としての尊厳を保っていないと本人が考えた場合、人為的な延命措置を行わずに自然な死を選ぶ権利があるとする考え方にもとづく。QOL(生命の質)を重視する流れから、この権利が求められるようになった。
延命措置を拒否するといっても、苦痛を和らげる緩和措置はこの延命措置には含まれないので、尊厳死を希望していても、緩和ケアを希望することは可能。
●尊厳死宣言
尊厳死や安楽死 → 法律上の根拠や制度は無いという問題点がある。
尊厳死に関する文書
・尊厳死宣言公正証書
・日本尊厳死協会の宣言書(リビング・ウィル)
・事前指示書
・「リビング・ウィル」とは
回復の見込みがなく、すぐにでも命の灯が消え去ろうとしているときでも、現代の医療は、人を生かし続けることが可能。人工呼吸器をつけて体内に酸素を送り込み、胃に穴をあける胃ろうを装着して栄養を摂取させる。
ひとたびこれらの延命措置を始めたら、はずすことは容易ではない。
生命維持装置をはずせば死に至ることが明らかなので、医師がはずしたがらない。
「あらゆる手段を使って生きたい」と思っている多くの方々の意思も尊重されるべきことだが、
チューブや機械につながれて、なお辛い闘病を強いられ、「回復の見込みがないのなら、安らかにその時を迎えたい」と思っている方々も多数いる。
「平穏死」「自然死」を望む方々が、自分の意思を元気なうちに記しておく、それが「リビング・ウィル(LW)」。
「日本尊厳死協会の「リビング・ウィル」(以下LW)は、
人生の最終段階(終末期)を迎えたときの医療の選択について事前に意思表示しておく文書」としている。
また、「もしものときには「私は、延命措置を望まない」という、包括的な事前指示書です。」としている。
・尊厳死宣言公正証書について(日本公証人連合会より)
過剰な延命治療を打ち切って、自然の死を迎えることを望む人が多くなってきているが、その顕れとして、事実実験の一種として、「尊厳死宣言公正証書」の作成例も見られるようになってきた。
「尊厳死」とは、一般的に「回復の見込みのない末期状態の患者に対して、生命維持治療を差し控え又は中止し、人間としての尊厳を保たせつつ、死を迎えさせることをいう。」と解されている。
近代医学は、患者が生きている限り最後まで治療を施すという考え方に忠実に従い、長らく、1分でも1秒でも生かすべく最後まで治療を施す治療が行われてきた。
しかし、延命治療に関する医療技術の進歩により、患者が植物状態になっても長年生きている実例などがきっかけとなって、単に延命を図る目的だけの治療が、果たして患者の幸福・利益になっているのか。
むしろ患者を苦しめ、その尊厳を害しているのではないかという問題認識から、患者本人の意思、すなわち、患者の自己決定権を尊重するという考えが重視されるようになってきた。
「尊厳死」は,現代の延命治療技術がもたらした過剰な治療を差し控え又は中止し、単なる死期の引き延ばしを止めることであって許されると考えられるようになった。
近時、我が国の医学界などでも、尊厳死の考え方を積極的に容認するようになり、また、過剰な末期治療を施されることによって近親者に物心両面から多大な負担を強いるのではないかという懸念から、自らの考えで尊厳死に関する公正証書作成を嘱託する人も出てくるようになってきた。
「尊厳死宣言公正証書」とは、嘱託人が自らの考えで尊厳死を望む、すなわち延命措置を差し控え、中止する旨等の宣言をし、公証人がこれを聴取する事実実験をしてその結果を公正証書にする、というもの。
ところで、尊厳死宣言がある場合に、自己決定権に基づく患者の指示が尊重されるべきものであることは当然としても、医療現場ではそれに必ず従わなければならないとまでは未だ考えられていないこと、過剰な延命治療に当たるか否かは医学的判断によらざるを得ない面があること、などからすると、尊厳死宣言公正証書を作成した場合にも、必ず尊厳死が実現するとは限らない。
なにしろ医療機関側としても抵抗がある。
延命措置を行わないように依頼されたとしても尊厳死を受け入れることには法的にも心理的にも抵抗があるのは事実。
延命措置を中止したことによって刑法に抵触する可能性があることなどから、責任を問われることを恐れ、なかなか延命措置の中止に踏み出せないという事情がある。
また、医師はわずかでも延命の可能性があるのなら治療を行わなければならないという職業倫理もあるため、本人の意思が確認できない状況で進んで尊厳死を受け入れることには困難が伴う。
もっとも、尊厳死の普及を目的している日本尊厳死協会の機関誌「リビング・ウィル」のアンケート結果によれば、同協会が登録・保管している「尊厳死の宣言書」を医師に示したことによる医師の尊厳死許容率は、
平成15年は95.9パーセント、
平成16年は95.8パーセントに及んでおり、
このことからすると、医療現場でも、大勢としては、尊厳死を容認していることが窺える。
いずれにしろ、尊厳死を迎える状況になる以前に、担当医師などに尊厳死宣言公正証書を示す必要があるので、その意思を伝えるにふさわしい信頼できる肉親などに尊厳死宣言公正証書をあらかじめ託しておかれるのがよいのではないかと思われる。
・事前指示書(基本的にリビング・ウィルと医療判断代理委任状の2種類)
事前指示書とは(アドバンスディレクティブ(Advance Directive: AD))、日本語でそのまま「事前指示」と表すこともあり、医療の文脈では「自らが判断能力を失ったときに、自分に行われる治療やケアの意向を示す意思表示のこと」という意味。
医療全般に関する包括的具体的な指示と医療判断代理人指名をする文書。
事前指示書とは、ある患者や健常な人が、将来自らが判断能力を失った際、自分に行われる医療行為に対する意向を、前もって意思表示するための文書。
事前指示書の内容と家族の意見が異なる場合、基本的には事前指示書に記載されている本人の意思が最優先となる。
日本での事前指示書はまだ法的な拘束力がないとされていて、仮に医療者が事前指示書のとおりの医療を実施しなかったとしても刑事上の罰則はない。
リビング・ウィルとあまり変わらないように思われるが、「意思決定をするときの代理人の指定があるかないか」ということ。
●安楽死は刑法に抵触するか
安楽死は、刑法第202条の嘱託(同意)殺人罪となる可能性がある。
(「自殺」・「自死」には、刑法上の問題はない。)
刑法202条
「人を教唆し若しくは幇助して自殺させ,又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は,6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する」
安楽死には、患者本人の自発的意思(死にたい)に応じて、患者を故意に死に至らせる「積極的安楽死」と、
患者本人が意思表示不可能な場合は親・子・配偶者などの自発的意思に基づく要求に応じ、延命治療を継続せず、または治療を中断・終了することにより、結果として死に至らせる「消極的安楽死」があるが、
本人の事前指示や親族らの同意のない消極的安楽死(いわゆる尊厳死)は,治療義務のある医師の不作為による殺人罪(刑法第199条)で、
自殺幇助罪・承諾殺人罪(刑法第202条)ではない。
刑法では,積極的安楽死(いわゆる安楽死)は認められておらず,もしこれを行った場合には,殺人罪(第199条)の対象となる。
刑法199条
「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。」
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終活・相続・遺言・
墓・葬儀「法務」
行政書士 鈴 木 俊 行
東京都杉並区阿佐谷
杉並区役所隣り
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