喪主(祭祀承継者)になると葬儀費用を負担しなければならない? 【最近の傾向】
- 鈴木俊行
- 2023年4月5日
- 読了時間: 6分
喪主(祭祀承継者)になると葬儀費用を負担しなければならない? 【最近の傾向】
葬儀費用は、
一般的には喪主が負担すべきであると考えられており、一旦は喪主が自己の費用で立て替えて支払うことが多いと思われます。
一方で、葬儀費用について誰が負担すべきかについて法津上の規定はありません。
ということから、
相続が発生した後、葬儀費用の負担をめぐって争いとなることもあり、遺産分割自体も上手くいかないケースがあります。
多くの事案では、喪主を務めた相続人が「自分が葬儀費用を支払ったから、相続財産からその分を清算できるはずだ。よって立て替えた葬儀費用を私に支払え」と主張するのです。
一般的には、
① 共同相続人が法定相続分に応じて葬儀費用を分割して負担する
② 葬儀を主宰した喪主(祭祀承継者)が全額を負担する
③ 相続財産である遺産から支出する
④ 慣習や条理に従って決定する
⑤相当な費用は相続人の共同負担であるがそれ以上の支出は喪主の負担とする
といわれています。
裁判所においても確定的な見解はなく、
葬儀の主宰者や葬儀の内容の決定は誰が行ったのか、他の相続人との協議をして葬儀内容を決定・手配したのか、主宰者以外の相続人は葬儀に参列したのか、また香典を支払ったかなどの事情により決することになっているようです。
葬儀費用を誰がどう負担するについて、
相続人同士で合意できるのであれば、どのような形であっても構いません。
遺産分割協議を行う際に、
葬儀費用を相続人で負担すべき費用とみて、相続財産から控除した残額を法定相続分で分配する、という例は多いと思いますし、そのような遺産分割協議は有効です。
また、遺産分割調停においても、
葬儀費用は、本来的には、地域慣習、当該事案の特殊事情を考慮して判断されるべき事柄であるため、後記の名古屋高裁判決の判断があらゆるケースで適用されるわけではないですし、葬儀費用は原則として遺産分割の対象にはなりませんが、相続人全員が合意すればその対象とすることができ、遺産分割調停において葬儀費用の負担についても話し合いがなされることがあります。
この場合、必ずしも喪主負担説が当然の前提とされているわけではなく、共同相続人の負担説や相続財産拠出説に沿って話し合いがなされることも多いです。
各当事者が合意した場合には、葬儀費用を考慮して遺産分割調停を成立させることが可能です。
相応の葬儀費用であれば相続財産から支払われることにつき合意されることが多いと思われる訳ですが、相続人間における対立が生じると合意も難しくなります。
そうなると、調停においても誰が葬儀費用を負担すべきかが大問題となるのです。
遺産分割審判では、
当事者の合意があっても、葬儀費用、遺産管理費用の清算の問題、遺産収益(相続開始後の賃料・配当金など)の分配の問題、相続債務の整理・分担の問題、相続人固有の共有持分の問題、遺言の執行をめぐる問題、同族会社の経営権をめぐる問題、老親の扶養・介護をめぐる問題、遺産土地の境界・通行をめぐる問題、金銭貸借に関する問題、祭祀承継の問題などについてについては審判の対象に含めることはできないと考えられています。
しかし、実務上は被相続人死亡後において、被相続人の預金を引出し、葬儀費用に充てた、という場合などには、引出後の預金金額を遺産とすることに合意するなどの方法によって、実質的に葬儀費用を組み込むこともできるものと思われます。
ところで、葬儀費用とは、
名古屋高裁平成24年3月29日判決
「葬儀費用とは、死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)と解される」
と判示され、
葬儀費用の負担については、
名古屋高裁平成24年3月29日判決
「葬儀費用とは、死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)と解されるが、亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者、すなわち、自己の責任と計算において、同儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担し、埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解するのが相当である。なぜならば、亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式を行うか否か、同儀式を行うにしても、同儀式の規模をどの程度にし、どれだけの費用をかけるかについては、もっぱら同儀式の主宰者がその責任において決定し、実施するものであるから、同儀式を主宰する者が同費用を負担するのが相当であり、他方、遺骸又は遺骨の所有権は、民法897条に従って慣習上、死者の祭祀を主宰すべき者に帰属するものと解される(最高裁平成元年7月18日第三小法廷判決・家裁月報41巻10号128頁参照)ので、その管理、処分に要する費用も祭祀を主宰すべき者が負担すべきものと解するのが相当であるからである。」
と判示されています。
最近の傾向は、この名古屋高裁平成24年3月29日判決が踏襲されていて、
葬儀費用を誰が負担するかに関しては、確固たる通説や最高裁判所の判例こそはないものの、下級審の判断は、原則として喪主を務めた人が葬儀費用を全額負担すべきという考え方(喪主負担説)「亡くなった人が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合は、追悼儀式に要する費用については、儀式を主宰した者、すなわち、自己の責任と計算において、儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担する」というのが主流のようです。
うっかり喪主を務めるとあらぬ問題が。。。
こうした事態を防ぐには、
・喪主を引き受けない、葬儀を手配もしない
・喪主を引き受けざるを得ない場合には、
葬儀費用につき相続人全員で葬儀費用負担割合等の合意をしておく
葬儀社への支払いの立て替え払いをしないで相続人全員から各自の負担分を預かっておく
最悪でもとりあず遺産の現預金から支払いを行う
ということになるのでしょうか。
喪主を引き受けると損をするというような流れには悲しみを覚えてしまいます。
なにしろ、
最近の裁判例の傾向によれば、葬儀費用は、通常は相続開始(被相続人の死亡)後に生じるものであるため相続財産とは別のものであり、相続財産から当然に支払うことができるというわけではありませから、当然のように遺産から負担させることができるわけではない上、費用を立て替えた喪主は、他の相続人に負担を求めることができない可能性があります。
前出の名古屋高判平成24年3月29日主旨
「亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず,かつ,亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては,追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者が負担するものと解するのが相当である」
ということです。
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終活・相続・葬祭「法務」
行政書士鈴木俊行
「終活・葬祭法務ネットワーク協会代表」
東京都杉並区阿佐谷
杉並区役所隣り
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