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「山林散骨」とは何か? 「樹木葬」との違いは? 埋葬方法の多様化の中での「山林散骨」のリスク ~利用者や墓地経営者が注意すべき点~

「山林散骨」とは何か? 「樹木葬」との違いは? 埋葬方法の多様化の中での「山林散骨」のリスク ~利用者や墓地経営者が注意すべき点~



葬送儀礼の多様化の流れの中で、

「墓地、埋葬等に関する法律」では、「火葬」「埋葬」「焼骨の埋蔵」「焼骨の収蔵」が規定されているが、

同法規定以外の方法、

つまり「散骨」による葬送が注目されている。


さて、散骨には「海洋散骨」と「山林散骨」があるが、

ここでは「山林散骨」について考えてみる。

理由は、山林散骨について刑法・墓地、埋葬等に関する法律や条例上の疑義や法的問題点があると思われるゆえ、利用者や墓地経営者が注意すべき点があるからである。

また、墓埋法による墓地に焼骨を埋蔵する「樹木葬」と、粉骨を撒く「山林散骨」との法令上の差異は何処に見出すのか? という問題もある。

(山林散骨についての、民事上の法的問題や墓地、埋葬等に関する法律以外の行政法上の問題点については別の機会に触れたい)


*下記の記事から、山林に「散骨」するケースを考える。

「自分の命が森の命に」新たな終活の選択肢『循環葬』


上記の記事によれば、

「『循環葬』。耳慣れない言葉ですが、火葬した遺骨を丁寧に砕き、森林の土の中に入れ、自然に還すというもの。墓石などは置かず、エリア一帯が弔いの場となるイメージです。」

「命を巡らせるということで『循環葬』。ご遺骨を細かくパウダー状にして土の中にそのまま入れる。ご遺骨が栄養として周りの全体の木の栄養になっていく。自分の命が森の命となっていくという形をつくりたいと思っています」

「日本では火葬して遺骨を墓に納めるのが一般的で、木の根元に埋葬する樹木葬や、粉砕した遺骨を海にまく海洋散骨などに続く、新しい選択のひとつになればと考案しました。」

「埋める深さも15cmくらいと実は浅いんですね。なぜかというと、一番その辺に菌がいるんです。なのでそこに土とパウダー化したご遺骨を混ぜて、それを埋めて元の状態に戻すと。墓標も何も立てません」

などとある(記事より引用)。


*墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)では、

粉骨を「散骨」することについての規定がない。

いわゆる「樹木葬」は、焼骨の埋蔵にあたり、一般的な墓に納めること(納骨・焼骨の埋蔵)と同義とされる。


墓埋法

第二条 この法律で「埋葬」とは、死体(妊娠四箇月以上の死胎を含む。以下同じ。)を土中に葬ることをいう。

2 この法律で「火葬」とは、死体を葬るために、これを焼くことをいう。

4 この法律で「墳墓」とは、死体を埋葬し、又は焼骨を埋蔵する施設をいう。

5 この法律で「墓地」とは、墳墓を設けるために、墓地として都道府県知事(市又は特別区にあつては、市長又は区長。以下同じ。)の許可を受けた区域をいう。

6 この法律で「納骨堂」とは、他人の委託をうけて焼骨を収蔵するために、納骨堂として都道府県知事の許可を受けた施設をいう。

第四条 埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない。


*散骨とは

「死者の遺骨を粉にして海や山へまく葬礼」(広辞苑第7版)とされる。我が国においては、遺体は火葬を行い墓に納骨し、または埋葬を行うのが当然のこととされているのだが、近年は葬送に対する考え方が多様化し、散骨も少なからず見られるようになっている。


こうした散骨は、法令上問題はないのか、無制限になされてよいのか。


*散骨と墓埋法・刑法の関係

「厚生労働省(厚生省)及び法務省の公式見解は?」

旧厚生省生活衛生局が設置した「これからの墓地等の在り方を考える懇談会」が平成10年6月にとりまとめた報告書では、「墓埋法が想定していない葬法として、焼骨を粉末状にして、墓地又は墓地以外の場所に焼骨を散布する散骨を行う人々が現れているが、「墓埋法は、本来、伝統的な葬法である埋葬・火葬の取締法規であり、葬法の在り方自体を直接的に規制するものではない。」とし、また、法務省は、「刑法の遺骨遺棄罪は社会的な習俗、倫理に関するものであり、相当な節度をもって行なう場合は、散骨を処罰の対象とすることはできないと解されている。」との見解を示している。

ただし、「死者の意志を尊重した散骨が認められるとしても、それは無制限のものではない。」、「公衆衛生上又は国民の宗教的感情上の問題を生じるような方法で散骨が行われる場合には、墓地埋葬行政として当然規制の対象になる。」、「『散骨の自由』も公共の福祉による制約を受けるのは当然である。」とし、そのうえで規制の方法について法律によるべきか条例によるべきかについては、葬送方法には強い地域差があると考えられること、墓地埋葬に関する規制権限は地方自治法上、自治事務とされていることから、「それぞれの地方の実情を踏まえて、地方自治体の条例で定めることが適当であると考えられる。」と結論づけている。

ところが、その報告書を受けて旧厚生省や厚生労働省が散骨に関して公式な見解を文書でとりまとめ、また、自治体に対して準則も含めて何らかの通知文書を発出するなどの動きをした形跡は見当たらない。


旧厚生省は上記「これからの墓地等の在り方を考える懇談会」の場で「散骨は墓埋法の埋葬にも埋蔵にも当たらない」、「散骨に関する現行解釈は、墓埋法は関知しないということである」等の見解を示し、法務省は平成3年10月の記者会見で法務大臣が「刑法190条の規定は、社会的習俗としての宗教的感情などを保護するのが目的であり、葬送のための祭祀で節度をもって行われる限り問題はない」旨述べた(自治体法務研究2006年春号CLOSEUP先進・ユニーク条例「長沼町さわやか環境づくり条例(散骨規制条例)」48頁、46頁)などとされているが、旧厚生省又は厚生労働省や法務省が公式な文書でその見解を示したものは確認できないとされている。


法務省刑事局見解(平成2年)とされるもの

「刑法190条の規定は社会的習俗としての宗教感情などを保護するのが目的だから、葬送を目的として相当の節度を持って行われる限りは、死体遺棄罪には当たらない。」

(刑法

第百九十条 死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する。)

厚生省(現厚生労働)生活衛生局見解とされるもの

「散骨は、墓地埋葬法の立法当時、社会的事実がなかったためにあえて規定しなかったものと考えられ、公衆衛生上の問題を生じたり、社会通念上国民の宗教的感情を損なうような形で行われない限り、規制の対象にはならない」


散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)

(令和2年度厚生労働科学特別研究事業「墓地埋葬をめぐる現状と課題の調査研究」研究報告書より)

では、「散骨」とは、墓埋法に基づき適法に火葬された後、その焼骨を粉状に砕き、墓埋法が想定する埋蔵又は収蔵以外の方法で、陸地又は水面に散布し、又は投下する行為

とされていて、「散布・投下」とあって埋蔵でも埋葬でもない。


*粉骨を地面に散布するのではなく「土中に埋め」たら?

焼骨をパウダー状に粉骨してそれを土中に埋める行為は「散骨」とはいわずに墓埋法の埋蔵にあたるのか?

墓埋法の許可は要らないのか?


パウダー状にした焼骨を土中に埋める(散布でない)には、

・許可を受けた墓地に埋蔵する方法によることが必要か?

・墓埋法の範疇外であるから私法関係や他の法律・条令に抵触しなければ、「散布」も「土中に埋める」ことも合法か?


仮に「散布する散骨」が合法ならば「土中に埋める散骨」に差異を設ける合理的な理由は何があるのだろうか?

パウダー状にした焼骨を、地面に撒くことと土中に埋めることとは、事実上同じである。

土中に撒くことが墓埋法に抵触するのであれば、地面に散布する散骨も墓埋法で規制すべきであろう。


そもそもパウダー状にした焼骨(粉骨)については、

節度をもってする散骨については、刑法190条(遺骨遺棄)の対象としない扱いとなっているようである。

つまり、粉骨を土中に埋めても刑法抵触問題は生じないということか。

ならば、粉骨を地面に撒いても土中に埋めてもそこに合理的差異は認められないように思う。


上記した循環葬の記事の「散骨」は、許可を得た墓地に行うのか、いわゆる墓埋法範疇外の散骨なのか。記事によれば粉骨を「土中に埋める(埋蔵?)」とあることから疑問が生じるのである。


*「散骨場」や散骨場所についての条例の規制もあることから、事業者は注意が必要


「何人も、墓地以外の場所で焼骨を散布してはならない。」(長沼町)

↑「墓地以外の場所」「散布」としているが、散布の定義を「物を一定の場所にまくこと」としている(土中に埋めたらどうなのか)。

「何人も、みだりに焼骨を散布してはならない。」(松島町)

↑「みだりに」とあるが節度をもってすれば良いことになる。

「何人も、墓地以外の場所で焼骨を散布してはならない。」(南阿蘇村)

↑「墓地以外の場所」「散布」としている。

「何人も、墓地以外の場所で焼骨を散布してはならない。ただし、市長が別に定める場合は、この限りでない。」(秩父市)

「何人も、市長が別に定める場合を除き、焼骨を散布してはならない。」(伊佐市)

↑一定の要件を満たし、届出等をした場合は散骨を可能とする。


「散骨場」

・「散骨場」の経営の許可制を規定するなど専ら散骨場の規制を行う条例としては、諏訪市、御殿場市、本庄市、湯河原町、熱海市、箱根町、伊東市、三島市及び愛南町の条例がある。しかし散骨行為そのものは規制していない。

「散骨場を経営しようとする者は、市長の許可を受けなければならない。」(諏訪市)

↑「散骨」については定義をしていない。

・御殿場市での「散骨場」の定義については、「墓地、埋葬等に関する法律第2条第2項に規定する火葬により生じた骨の粉末(その形状が顆粒状のもの及び遺灰を含む。)を地表等へ散布を行うための区域として、市長の許可を受けた事業区域」(御殿場市条例2条1号)等と規定されている。

↑「地表等への散布」としている(地表とは何か)。


・散骨場の規制を行うとともに、散骨を原則として禁止する条例としては、岩見沢市条例がある。「散骨場を経営しようとする者は、市長の許可を受けなければならない。」「散骨は、散骨場以外の区域において、これを行ってはならない。」「ただし、次条の規定による届出をした者がその届出に係る区域において散骨を行う場合は、この限りでない。」(同条但書き)とし、「散骨場以外の区域において散骨を行おうとする者は、あらかじめ、その旨を市長に届け出なければならない。」(8条)とし、市長に届けた場合は散骨場以外の区域における散骨を認めている。


*自治体においては、「散骨の定義」「散骨の可否」「散骨場所」「散骨許可」「散骨場許可」などに関し、バラバラである。


*さらに利用者は、山林散骨が合法なのか、散骨場所が合法なのかについて注意が必要




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終活・相続・葬祭「法務」

行政書士鈴木俊行


「終活・葬祭法務ネットワーク協会代表」


東京都杉並区阿佐谷

杉並区役所隣り

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